カボッチャマンブログ

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読書感想「バカと無知 人間、この不都合な生きもの」PART3

前回の続きを書いていきます。

 

PART3 やっかいな自尊心

 

14 皇族は「上級国民」

脳は、上方比較を損失、下方比較を報酬ととらえる。ネットのコメント欄に誹謗中傷を書くのは気持ちがいいのだろう。

皇族は楽をして生活できているものと思い、結婚相手について口出しするのは、キャンセルカルチャーの一つ。

皇族は生まれながらにして身分が決められているのに、保守派からは「私たちの夢を壊さないで」と、下級国民からは「特権は許さない」と、激しい攻撃を受けている。それは今後ますます強くなる。そうなったとき、天皇は日本の象徴でいられるのだろうか。

 

15 「子どもは純真」は本当か

自尊心は所属する集団から大きな影響を受ける。

強い集団に属していれば自尊心は強くなり、弱い集団に属していれば自尊心は弱くなる。

3歳を過ぎるころになるとほとんどの白人の子どもが黒人を悪いとみなし、否定的な感情を抱くようになる。白人の子どものこの傾向はアジア系やインディアンに対しても同様にみられる。

これが人種差別かどうかは疑問。自分の世話をしてくれるのは親や兄弟だから、自分と似たものを好きになり、似ていないものを警戒するのは生きていく上で理にかなっている。だが、黒人の4~7歳までのこどもを調査すると、黒人よりも白人を好むこともあった。また、黒人の人権を向上させる活動に熱心な家庭で育った黒人の子どもの方が白人に対してより好意をもつようになった。

階層化された社会では、強いマジョリティに引き寄せられるのではないか。教育の中で平等であることを教わると同時に、白人が黒人よりも優位にあることを感じ取る。認知能力に限界があるため、平等ということを理解することが難しい、結果として、白人が黒人より優位ということから、マジョリティに惹かれることになる。

ヒトはどんなこととしてでも自尊心を高めたいと思っている。集団がそれを与えてくれないなら、自分で承認を獲得するしかない。女は男より承認欲求が強い、という性差別的な発言もこれで説明ができる。こうした偏見は教育によって7歳以降に弱まるとされているが、これがヒトの本性だとするならば、教育でなくなるとは考えにくい。より高度な認知能力を獲得した子供たちは、自分の偏見を上手に隠ぺいする術を獲得するだけではないか。

 

16 いつも相手より有利でいたい

赤ちゃんは2歳になる前から平等主義者で成果主義の支持者。

子どもたちは不公平に敏感だが、それを意識するのは、自分の取り分が相手より少ない、損したときだけ。

子どもたちにとって重要なのは、絶対的な損得(経済合理性)ではなく、相対的な損得(進化的合理性)で、それは、私たちの祖先が150人くらいの共同体で生活していて、そこでは、他のヒトより地位が高いヒトが選ばれていたから、相対的に有利かどうかが生存競争には重要だったから。

成長するにつ入れて、絶対的な損得を計算できるようになり合理的な判断ができるようにが、それでもお互いが平等がせいぜいで、相手が有利(自分が不利)になる選択には大きな抵抗がある。

 

17 非モテ男と高学歴女が対立する理由

集団をマジョリティとマイノリティに分け、さらに各集団の2割が上位層と下位層、残りの6割が中間層とする。

ヒトは自分の所属している集団を守ろうとし、その集団の中で頂点に立とうとする。これは、他の集団に自分の集団が襲われれば、男は殺され、女は子どもを取り上げられ凌辱されてしまうことと、集団の頂点にいれば、男なら若い女を、女なら自分のところに食料をもってくる男を手に入れることができ、子孫を残すことができるから。

マジョリティ(男集団)の中で上位層にいる自尊心の高いモテは、女性の社会進出に賛同するイクメンになり、恋愛の自由市場から排除された自尊心の低い非モテは、男というアイデンティティを守ろうとフェミニズムに反対する。

マイノリティ(女集団)の中で下位層にいる自尊心の低い女は、性役割分業を受け入れる専業主婦になり、自尊心の高い女は、男女平等を目指す積極的な活動家(フェミニスト)になり、アンチ・フェミの男と衝突する。

 

18 ほめて伸ばそうとすると落第する

現代社会では、自尊心や自己肯定感が重要だとされている。

2003年の研究で自尊心を養っても学業やキャリアが向上することはなく、それ以外でもなんらポジティブな影響はないことがわかった。

自尊心とは何かが良くわからないことが問題。あなたは価値のある人間ですか、みんなから好かれていますか、という質問に主観で答えることに問題がある。

恵まれた家庭に育った賢い子どもは、学校でうまくやていけるので、成績もよく自尊心も高い→自尊心は原因ではなく結果

自尊心は報酬だから、目標を達成する前にほめると努力しなくなる可能性がある。

自尊心が高いと離婚や浮気(他の相手を探す)が多い、自己中で周りを気にしないなどのマイナス面もある。

自尊心が高くても何もかもうまくいくわけでなく、教育や子育てで自尊心を高めようとするとかえってヒドイことになる。

 

19 美男・美女は幸福じゃない?

自尊心が高いと幸福度も高い、は多くの研究で実証されているが、これは、自尊心を高めれば幸福になれるのではなく、幸福だと自尊心(自己肯定感)も高くなる、という逆の因果関係のようだ。

ある研究の結果から美人だから幸福度が高い、のではなく、幸福度が高いと自分を魅力的に見せようとするらしい。

美男美女は幸福でもなければ、自尊心が高いわけでもないというのは、世間の常識と異なるが、ヒトは良いことにも悪いことにも慣れてしまうと考えれば、不思議ではない。

といっても、魅力的であっても何もいいことはい、というわけでもない。外見の経済的価値を試算した経済学者によれば、美人は平均よりも8%収入が多く、不美人は4%少ない(美男は4%多く、不美男は13%少ない)。

外見が魅力的だと様々なところで得をするが、本人たちはそれが日常なのでいちいち自分たちが幸福だとは思わないらしい。

 

20 自尊心が打ち砕かれたとき

大量の研究が明らかにしたのは、「うまくいくと自尊心が高まり、うまくいかないと自尊心が低くなる」という身もふたもない事実。

学生たちを対象とした研究で自尊心を打ち砕いた(自分は優秀だという自信を粉々にした)後、能力に関すること、対人関係に関すること、雑多なことのリストを渡し、知りたいことを選んでもらった。すると、自尊心の高かった学生は能力に関することを選び、自尊心の低かった学生は対人関係に関することを選んだ。

自尊心の高い学生は、どうやったら自分の能力をもっと発揮できるかに関心をもち、自尊心の低い学生は、どうやったら他人に好かれるかに関心をもった。

これらの学生をほかの学生と議論させたところ、自尊心の高い学生は、傲慢、無礼、非協力的などとみられた一方で、自尊心の低い学生は、正直、控えめ、温和などと思われた。

個人主義的な社会では、自尊心が高いことが評価されるが、集団主義的な社会では、周囲とうまくやっていくことが重要なので、それが自尊心に反映されるのではないか。

アメリカのような個人主義的な国のヒトは自尊心が高く、日本のような集団主義的な国の人は自尊心が低くなるのではないか)

生まれた国で自尊心の高低が自動的に決まるのは疑問、個人の能力も他者とうまくやっていく能力も両方必要。

 

21 日本人の潜在的自尊心は高かった

私たちは、自尊心メーターをもっていて、その針が下がるとなんとしてでも元の位置に戻そうとする。元々自尊心が高い人は自分の能力を誇示しようとし、元々自尊心が低い人は周囲に同調することで自信を取り戻そうとする。

日本、アメリカ、中国の大学生を対象に顕在的自尊心と潜在的自尊を調査した研究の結果、顕在的(主観的)自尊心はアメリカと中国の学生が高く、日本の学生が低かった。しかし、潜在的自尊心(親友より自分の方がイケてる)は3か国で差がなかった。さらに内集団(オレたち)の自尊心は日本がアメリカ、中国を引き離して一番高かった。

日本は同調圧力が働くため、周囲には控えめに見せておこうとする一方で、アメリカ、中国は自分に自信があることを隠す必要がない社会のようだ、

顕在的自尊心と潜在的自尊心を独立したものだと考えれば、4パターンに分けられる。

①顕在的自尊心も潜在的自尊心も高い

②顕在的自尊心も潜在的自尊心も低い

③顕在的自尊心は低いが、潜在的自尊心は高い

④顕在的自尊心は高いが、潜在的自尊心は低い

一般的に自尊心が高いというのは①の人だが、日本人は③のタイプが多く、周囲と合わせるために自分の高い自尊心を隠している。謙虚で腰が低そうに見えるが、実際はプライドが高く扱いづらいというのが③のタイプ。一方で④のタイプは、外面上は自信満々に見えるが内心では、自分に自信がないことがバレるのではないかと戦々恐々としている。

②のタイプは、共同体の中でうまくやっていけないので、うつ病などと診断されるが、こうした人は一部(少なくとも少数派)であるから、自尊心が低いと主張する日本人の多くは、潜在的自尊心が高いことになる。

 

22 自尊心は「勘違い力」

自尊心には安定度がある。自尊心が高く、安定度も高い人は多少のストレスにも動じないが、自尊心が高く、安定度が低い人は、ストレスを受けたときに攻撃的になりやすい。自尊心が低く、安定度も低い人は、攻撃を他者ではなく自分に向けるので、抑うつ的になりやすい。

自尊心の高さは、パーソナリティ(性格)のうちの神経症傾向を調べている。楽観的か悲観的かを調べていて、楽観的(神経症傾向)が低い人は幸福度が高いことと、自尊心が高いことは同じこと。

悲観的であっても、悪いことばかりでなく、集団討論のような場では、楽観的な(自尊心が高い)人は最初は注目されるが、勘違いしていることが周囲にバレると、空気が読めない人として嫌われる。自尊心が低い人は周囲に気を遣うのでうまくやっていく。

自尊心が高く見える人も自分の自尊心が低いことがバレないようにすることに苦労している。ナルシスト以外に本当に自尊心が高い人はほとんどいない。なぜなら自尊心が極端に高く同調性がない人は、とうの昔に殺されたか、遺伝子を残せていないはずだから。

 

23 善意の名を借りたマウンティング

社会的な動物は、オスがメスをめぐって争う。メスは妊娠・出産のコストが高く、オスを選り好みする。オスはヒエラルキーの上に立とうとする。軍隊のように肩書があって上下関係がハッキリしている場合には問題にならないが、肩書がない場合には、マウンティングという形で上下関係を決める。

相手のためを思って言ったアドバイスも言われた側がストレスを受けている状態では、マウンティングと捉えられかねない。生物として、上方比較は損失で下方比較は報酬と受け取るように進化してきたから、相手がマウンティングしようとしていると感じてしまう。

学校の先生と生徒のように圧倒的に力に差があれば、助言や指導はマウンティングとならないが、お互いの力が拮抗している場合には、マウンティングになってしまう。

ボランティアが人気なのは、善意の名を借りて無力の人間をサポートするのが自尊心の低い人にとってそれを引き上げる最も簡便な方法だから。

 

24 進化論的なフェミニズム

差別や偏見が世界中で問題になっている。これは社会が差別的になったからではなく、リベラル化が進み、これまで差別や偏見として扱われなかったことまで、そういうふうに扱われるようになったから。

男女の賃金に開きがあるのは、日本だけでない。女性が介護や看護の仕事が賃金が安くても自ら選んでやっているのだとしたら、それは差別でなはい。男女の賃金格差を問題にするのは、一部の大富豪に男性が多いから(論理・数学的能力の高い人が大きな富を得ていて、その性比が大きく偏っているから)。

男性と女性では脳の作りが少し違う。男性は狩猟のときに動物を仕留めるために空間認知能力が高くなり、女性は共同体の女性や子供と採集するために言語的知能が高くなった。

男女の脳に何の違いもないのであれば、エンジニアやプログラマーのような仕事に就く人を男女半々にすればよいが、そうしないのは、経営者が高知能領域では男の方が優秀で、男女半々にするとライバル会社に勝てないからと考えているのではないか。

シリコンバレーの企業では、白人、インド系、アジア系の従業員が人口比に不釣り合いなほど多く、黒人やヒスパニックが少ない。その理由は何なのかという議論を起こさないために、男と女の脳は生物学的に違いがあるという主張を封殺しなければならなかったのだろう。